
BOXのハイブリッドタッチモデル~テックタッチとハイタッチの融合
先日、とある国内SaaS企業のCS Ops職の方とお話していたところ、「海外のテックタッチの事例が知りたい。BOXに注目している」というオーダーを頂きました。
※以前はSalesforceのカスタマーサクセスについて紹介しました。
カスタマーサクセス分野に関わるものとして私もBOX社の取り組みを調べてみようと思い、調査したところ、2017年のGainsightのカスタマーサクセスイベントPulseにてBOXが発表したスライドが大変興味深い内容でしたので紹介します。
ハイタッチのカスタマーサクセスの世界に”自動化”をもたらす
プレゼンのタイトルは「ハイタッチのカスタマーサクセスの世界に”自動化”をもたらす」というもの。属人化しやすいハイタッチのカスタマーサクセス支援において、どのように自動化の仕組みを入れていったのか、その苦悩や取り組みについてプレゼンをされています。
カスタマーサクセス組織をスケーリングさせるうえでの課題
BOX社は、顧客数が増えるにしたがって、カスタマーサクセス組織をスケーリングさせるうえでの課題をいくつか取り上げていました。
そのうちの一つは上図のもので、SMB/ミドルマーケット/エンタープライズごとに1人のCS担当者あたりのサポート社数を定めていたものの、この比率を維持し続けるのはとても大変だと述べています。
たしかに、各企業規模別の営業マーケティングの顧客契約比率はコントロール出来ないでしょうし、採用・育成の面でもSMBやエンタープライズの顧客増に合わせて人材アロケーションをし続けるのは難しいのは想像がつきます。
また、カスタマーサクセスの理想と現実についても触れています。
理想のカスタマーサクセスとしては下記でしょう。
・テックタッチ的なアプローチでいくなら左側:すべての顧客に平等なサービス提供をする
・ハイタッチ的なアプローチであれば右側:主要な顧客に対し集中的なサービス提供する
しかし、実態として起こっているのは、「声の大きい顧客をフォローしがちであり、声をあげない多数の顧客を無視している」状況です。
これはカスタマーサクセスとして耳が痛い話ですが、身に覚えがある状況ではないでしょうか。
そして、テックタッチ・ロータッチ(左側)とハイタッチ(右側)がサイロ化(分断)されてしまっているという課題についても触れています。
私自身、「テックタッチ」のCS業務と「ハイタッチ」のCS業務、どちらも経験したことがあるのですが、テックタッチで設計したコンテンツやプログラムが、ハイタッチ側のメンバー達に届いておらず、別々に分かれて業務を進めてしまうというシーンは確かにありました。
「テックタッチ」と「ハイタッチ」がバラバラに活動してしまうサイロ化現象
こちらはBOX社の実際の以前の例です。(上図はテックタッチ、下図がハイタッチ)
テックタッチはテックタッチ側で、メールの自動送信や、box UNIVERSITY、box COMMUNITY(BOXが運営するトレーニング・コミュニティサイト)を行う。
ハイタッチはハイタッチ側で、メールや架電を行って、担当者各々で提案を考え連絡する。
まさに、テックタッチとハイタッチはバラバラに活動していたわけです。
カスタマーサクセスにおける「ベースラインサービス」の考え方
このようなサイロ化(分断された)状態はいけない!とBOXが行った施策(本スライドの主題)は、「ベースラインサービス」という考え方です。
テックタッチとハイタッチ、SMBとエンタープライズ、といった顧客属性に限ることなく、全顧客平等に(ベースとなる)サービスを提供しようという取り組みです。
変化①ハイタッチが伝えるコンテンツのテックタッチ化
そして、行ったことの結論はこちらの図です。
これは何をしたかというと、boxとして提供するべきベースメントサービスを「box UNIVERSITY」と「box COMMUNITY」に置き、ハイタッチのサポートの役割はこれを活用した顧客コミュニケーションに変えたのです。
これまでハイタッチのカスタマーサクセス担当が各社それぞれに対し行っていた、メール・電話・打ち合わせを通じた属人的なアドバイスの業務をやめた、ということでもあります。
この変化はとても大変で、時間を有するものだったとプレゼンの中では述べられています。
変化②ハイタッチのサポートすべき「顧客検知」のルール化
またもう一つ行ったのは「顧客検知」業務の自動化です。
これは「声の大きい顧客をフォローしがちである」問題へのアプローチです。
「カスタマーサクセスとして何かアクションを起こすべき顧客はどのお客様か?」についてルールを設けました。
担当者変更、継続決済の停止、行動の変化、NPS…など、詳細については触れられていませんでしたが、「こんな状態に顧客がなったときにサポートをする」という定義づけをすることで、ハイタッチのカスタマーサクセスが属人的にフォローするのを防いています。
変化③ハイタッチのコミュニケーション内容のテンプレート化
またハイタッチのカスタマーサクセスが行う連絡内容についても自動化されています。
これは先方の担当者変更があった際の連絡ですが、その場合に送付するメールテンプレートが用意されており、メールのリンク先にはbox UNIVERSITY(トレーニングサイト)への招待が貼られています。
ハイタッチとテックタッチの融合「ハイブリッドタッチ」
このように、ハイタッチが行う業務にテックタッチ的な要素(「ルール」と「テクノロジー」)を混ぜていくことで、BOX社は生産性の高いカスタマーサクセスを実現しています。
こちらのスライドのタイトルは「ハイタッチのカスタマーサクセスの世界に”自動化”をもたらす」でしたが、私はこのような取り組みを「ハイブリッドタッチ」(ハイタッチとテックタッチの融合)と呼ぶことにします。
日本は東京一極集中の要因からも、ハイタッチのカスタマーサクセスからチームを組成する会社が多いです。そのため、テックタッチとハイタッチを分断するのではなく、ハイブリッドに混ぜ合わせたようなタッチモデルが今後日本でも主流になるものだと私は思います。
おわりに
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